AI のやらかしを22件、全部記録してみた。
ノベルゲーム制作で分かった「失敗の型」
頼んでいない所まで直す。大事な音を消す。実在の人の経歴を作る。AI が自分で書いた反省文22件を読み返して、失敗の型と防ぎ方をまとめました。
この記事は 2026年10月22日時点の情報です2026年の夏、ノベルゲームを作っていました。シナリオや演出の組み込みを手伝ってもらったのは、OpenAI のコードを書く AI「Codex」です。
このとき、ひとつ決まりを作りました。AI がミスをしたら、そのたびに AI 自身に記録を書かせる。何が起きたか、なぜ起きたか、次からどう防ぐか。7月2日から7月14日までの2週間で、その記録は22件になりました。
読み返すと、AI の失敗にはいくつかの「型」があることが分かります。このノートでは22件を7つの型に分けて、それぞれの防ぎ方を書きます。AI と一緒に何かを作る人なら、だいたいどれかに出会うはずです。
- ミスのたびに AI 自身に「起きたこと・原因・防止策」を書かせたら、2週間で22件たまった
- いちばん多いのは「道具の決まりを確かめずに書く」。次が「頼まれた範囲を超える」
- 防ぎ方は、範囲を先に決める、消す前に聞かせる、画面で確かめる、の3つでだいたい足りる
記録のしかた
記録は、作業フォルダに置いた1つのテキストファイルです。ミスが見つかるたびに、AI が次の形で1件ずつ書き足していきます。実際の記録から1件を抜き出すと、こんな感じです。
## 2026-07-02: 会話送りクリックSEを消してしまった ### 起きたこと - 会話送り時の「カチッ」というクリックSEを消してしまった。 ### なぜ起きたか - BGMやSEの重なり対策をしている時に、「クリックSEが邪魔になる場面がある」と誤って判断した。 - ユーザーが意図して置いていた「会話進行のアクセント」という演出意図を確認しなかった。 ### 次からの防止策 - グローバルSE/BGM、クリック音、メッセージ送り処理は勝手に無効化しない。 - 共通クリック音を変える必要がある時は、必ず事前に確認する。
ポイントは「防止策」まで書かせることです。新しい会話を始めるときにこのファイルを読ませておけば、同じ穴を避ける手がかりになります。AI は会話をまたいで記憶を持ち越せないので、反省を文書にしておくのがいちばん確実でした。
22件の一覧
先に全部を並べておきます。右の丸数字は、このあと説明する7つの型です。日付はすべて2026年です。
| 日付 | AI が書いたミスの題(短くまとめたもの) | 型 |
|---|---|---|
| 7/2 | 話者名の修正を、頼まれていない所まで広げた | ③ |
| 7/2 | PowerShell の検索に [ を渡して大量のエラー | ② |
| 7/2 | 別人として扱っている2つの名前を混同した | ⑥ |
| 7/2 | 会話を送るときの「カチッ」という音を消した | ③ |
| 7/4 | 会話の枠を戻すとき、標準の見た目を手で書いて名前が二重に | ① |
| 7/7 | 前に出す画像を、背景用のフォルダに置いた | ① |
| 7/7 | 回想の場面で、専用の会話枠に切り替え忘れた | ① |
| 7/8 | 日本語のファイル名が文字化けして開けなかった | ② |
| 7/8 | 調べる物が等間隔に並んで、探す楽しさがなかった | ④ |
| 7/8 | 条件式に見えない空白( )が混入しかけた | ② |
| 7/8 | キャラの表示に、仮の ID を使ってしまった | ① |
| 7/8 | 資料の画像と立ち絵の重なり順を想定しきれなかった | ④ |
| 7/8 | 説明を短く要約しすぎて、大事な言葉が抜けた | ⑤ |
| 7/8 | 見えない空白が残って、次の場面に進めなかった | ② |
| 7/8 | 全部集めたら進む判定を、1か所の条件だけに頼った | ⑦ |
| 7/8 | クリックを受け取る設定を残して、会話が進まなかった | ① |
| 7/8 | 台詞を短く切りすぎて、句点だらけの文章に | ⑤ |
| 7/8 | 改行の直後にページ送りを置いて、1行ずつ送られた | ① |
| 7/8 | 名前のない消去命令で、セーブなどのボタンまで消しかけた | ③ |
| 7/13 | 音声までまとめて先読みして、ブラウザで止まった | ⑦ |
| 7/13 | 画像の命令の既定のフォルダを確かめずに指定した | ① |
| 7/14 | 実在のプロゲーマーの戦績を、架空で補った | ⑥ |
7月8日だけで12件あります。この日は、手がかりを集めて進む探索の場面を、一気に作った日でした。新しい仕組みを入れる日は、ミスもまとめて出る。逆に言えば、そういう日こそ確認を厚くすればいい、ということでもあります。
22件を7つの型に分けると
① 道具の決まりを確かめずに書く(7件)
いちばん多かったのがこれです。ノベルゲームの制作ソフト(TyranoBuilder)には、「この命令で出す画像はこのフォルダに置く」といった細かい決まりがあります。AI はそれを確かめずに「たぶんこうだろう」で書いてしまう。
- 前に出す画像を、背景用のフォルダに置いた → 「画像が見つかりません」
- 会話の画面を元に戻すとき、プロジェクトで使っている見た目ではなく、標準の見た目を手で書いた → 名前の欄が二重に出た
- 改行の直後にページ送りを置いて、1行ずつ送られる読みにくい画面になった
防ぎ方は単純で、「似たことを既にやっている場所を探して、そのまま真似して」と頼むことです。実際、記録の防止策にも「既存の同系統のブロックから、設定一式をセットで移植する」と書かれています。
② 文字コードや道具の罠(4件)
4件中2件は、条件式の中に「見えない空白」(HTML の )が紛れ込んだものでした。見た目は普通の空白なのに、プログラムには別の文字として読まれるので、条件が成り立たず、次の場面に進めなくなります。
ほかに、日本語の入ったファイル名を Windows のコマンド経由で渡したら文字化けして開けなかったもの、[ を含む文字列を PowerShell の検索に渡したら記号として解釈されて大量のエラーが出たもの、もありました。
このあたりは人間のプログラマーもよく踏む穴です。AI も同じところで転ぶんだな、と少し親近感がわきました。
③ 頼まれた範囲を超える・大事なものを消す(3件)
私がいちばんヒヤッとしたのがこの型です。
ある登場人物の呼び方について「話者名を変えたい」と伝えたら、AI は話者名の欄だけでなく、本文、タイトル画面、スタッフロール、作業メモ、画像の差し替え候補まで直そうとしました。音の重なりを直していたときは、私がわざと入れていた会話送りの「カチッ」という音を、邪魔だと判断して消していました。
どちらも、AI なりに「良かれと思って」やっています。そこがやっかいなところです。
直前の文脈よりも、こちらの「統一した方がよさそう」という判断を優先してしまった。(AI が書いた反省文より)
防ぎ方は2つです。頼むときに「触っていい範囲」を書くこと。そして「消す・無効にする前には必ず聞いて」と最初に伝えておくこと。頼み方のくわしいコツはプロンプトのノートに書きました。
④ 画面で見ていない(2件)
探索の場面で、クリックして調べる物を3つ置いてもらったときのことです。機能としては動いていたのに、3つが同じ大きさで等間隔に並んでいて、「散らかった部屋を探す」感じがまったくありませんでした。
AI は「動くかどうか」は確かめても、「どう見えるか」までは確かめないことがあります。記録の防止策には「探索画面を作る時は、必ず一度プレビューで見た目を確認する」と書かれています。最後に目で見るのは、やっぱり人の仕事です。
⑤ 文章の質(2件)
文字が枠からはみ出すのを恐れて、台詞を短く切りすぎ、句点だらけの硬い文章になったことがありました。また、仕組みの説明を手がかりのカードに分けたとき、要約しすぎて大事な用語の説明が抜け落ちたこともあります。
AI は「制約を守る」ことに意識が向くと、文章の味を簡単に犠牲にします。記録の防止策では、1行に収める文字数を数字で決めて、それ以上は短く切らない、というルールにしていました。
⑥ 名前と事実(2件)
22件の中で、いちばん重いと思っているのがこの型です。
実在のプロゲーマーをモデルにした場面で、AI は世界大会での優勝、通算の記録、本人の発言まで、確認できないことを作って書き込みました。物語の中の出来事のつもりでも、実在の人の名前が出ていれば、読んだ人には本当の経歴に見えてしまいます。
もう1件は、作中で別人として扱っている2つの名前を、AI が同じ人だと思い込んで混ぜかけたものです。
AI は、知らないことを作って埋める。実在の人が出てくる文章は、必ず人が確かめる。
なぜ AI がこういうことをするのかは、AI の嘘のノートで説明しています。
⑦ 設計と性能(2件)
最後は、作りの問題です。手がかりを全部集めたら次へ進む、という判定を1か所の条件式だけに頼っていて、どこで壊れているのか切り分けられなかったもの。それから、新しい場面で音声までまとめて先読みさせて、ブラウザで遊ぶと冒頭で止まってしまったものです。
どちらも「とりあえず動く」形で書いたあとに、遊ぶ環境での確認が足りなかったのが原因でした。
記録して良かったこと
22件を書かせてみて、良かったことが3つあります。
- 次の作業の前に読ませられる:防止策が1つのファイルにまとまっているので、新しい会話でもすぐ共有できる
- 自分の頼み方を見直すきっかけになった:③の型は、頼む側が範囲を書いていれば防げた
- AI の得意・不得意が具体的になった:「AI は間違える」ではなく「この種類で間違える」と言えるようになった
ちなみに、ほかの作品でも同じことをしています。Claude と作っている落下ゲームでは、分野ごとに再発防止のルールをまとめたファイルがあって、そのいちばん上にはこう書いてあります。
推測で直そうとせず、実測する。1回の推理は5分だが、外した推理の後始末は30分かかる。
やらかしは、記録すれば財産になります。AI と何かを作るなら、ぜひ「反省文を書かせる」を試してみてください。
ミスが見つかったら、MISTAKE_LOG.md に1件ずつ追記してください。 形式: ## 日付: 一行でミスの内容 ### 起きたこと ### なぜ起きたか ### 次からの防止策 作業を始める前に、必ずこのファイルを読んでください。
このノートから持ち帰れること
22件を並べると、AI のミスはほとんど「先回りで防げる型」でした。AI に作業を頼むとき、最初に添えておくと効く予防線をまとめます。
- 「似たことを既にやっている場所を真似して」と頼むいちばん多いミスは、道具の決まりを確かめずに書くこと。既存の正しい例を指させば、その決まりごと写してくれる。既存のコードやテンプレートがある作業全般
- 「触っていい範囲」と「消す前に聞いて」を最初に書くAI は良かれと思って範囲を広げ、邪魔に見えたものを消す。範囲と、消すときのルールを先に渡す。文章の修正、デザインの手直し、設定の変更
- 見た目は、画像で確かめさせる「動く」と「ちゃんと見える」は別。変更のたびに画面を撮らせて、自分の目で見る。Web ページ、ゲームの画面、資料
- 実在の人や会社の情報は、必ず人が確かめるAI は知らないことを作って埋める。名前が出てくる文章は、公式の情報と照らし合わせる。紹介文、記事、プレスリリース
- ミスは、AI 自身に記録させる起きたこと・原因・防止策を1つのファイルに。次の作業の前に読ませれば、同じ穴を避けやすくなる。長く続く開発、くり返しの作業
やってみよう
記事と同じことを、手元の AI で試せる指示文です。ChatGPT・Gemini・Claude のどれでも使えます。AI は毎回ちがう答えを返すので、記事とまったく同じ条件にはなりませんが、考え方の練習にはしっかり使えます。実際にやってみてください。
練習1ミスの記録を AI に書かせてみる
さっき、あなた(AI)は次のミスをしました。 (例:頼んでいない段落まで書き換えた) このミスを、次の形式で記録してください。 ## 日付:ミスの内容を一行で ### 起きたこと ### なぜ起きたか ### 次からの防止策
防止策が「気をつける」ではなく、具体的な手順になっているか。
練習2予防線を先に張る
これから、次の文章の誤字を直してもらいます。 直すのは誤字だけです。言い回し・語尾・段落の順番は変えないでください。ほかに直したほうがよさそうな所を見つけたら、直さずに一覧で教えてください。 (ここに文章を貼る)
誤字以外が変わっていないか。変わっていたら、それが「範囲を超える」型のミスです。
出典・参考にした情報
- ノベルゲーム制作中の AI のミス記録(2026年7月2日〜14日、22件、自分の作業記録)
- 落下ゲーム制作の再発防止ルール(自分の作業記録)
- ティラノスクリプト公式タグリファレンス
2026年10月22日に記録を読み返して書きました。7つの型への分け方は私の判断です。下書きや図づくりには AI を使っていますが、事実関係は自分で確かめてから公開しています。