作業を全部 AI に任せたい。
ホラーゲームのエンジンを、Claude と選んだ話
条件は「作業はとにかく全部任せたい」「影がきれい」「古めの PC でも動く」。この3つを満たすエンジンを、Claude と比べて選びました。
この記事は 2026年10月22日時点の情報です2026年9月25日から、ホラーゲームを1本作っています。ゲームの中身はまだ秘密なので、このノートでは書きません。書くのは、その前の段階、どのゲームエンジンで作るかを AI と決めた話です。
私の条件は、最初からはっきりしていました。
- 作業はとにかく減らしたい。作ることは全部 Claude に任せたい
- リアルで質感のある見た目。日本のホラーらしい、じっとりした空気と、きれいな影
- 要求スペックは低めに。古い PC でも遊べるように
この3つは、ふつうはぶつかり合います。リアルにすれば重くなるし、AI に全部任せたいなら選べる道具は限られる。その落としどころを探した記録です。
- 選んだのは Unreal Engine 5.8。光と影を「事前に焼き込む」軽い設定で使う
- 決め手は、AI が C++ と Python でエディタの外から全部いじれること。ゲームの重さはエンジンより作り方で決まる
- 12日間で Claude Code の出力は約600万トークン。私の仕事は遊んで直してほしい所を伝えることだった
まず、参考にしたい作品の「重さ」を比べた
Claude が最初にやったのは、私が好きなホラーゲームや、比べたい有名作の動作環境を並べることでした。ストアのページに書かれている「最低これくらいの PC が必要」という条件です。
| 作品 | エンジン | 最低の画像処理 | 最低メモリ |
|---|---|---|---|
| 赤マント | Unity | 内蔵 GPU | 4GB |
| 8番出口 | Unreal 5 | GTX 970 | 8GB |
| 呪われたデジカメ | Unreal 5 | GTX 1060 6GB | 8GB |
| Buckshot Roulette | Godot | Vulkan 対応 GPU | 2GB |
| フォートナイト | Unreal 5 | 内蔵 GPU | 8GB |
| PUBG | Unreal 4 | GTX 960 | 8GB |
並べてみて分かったのは、ゲームの重さはエンジンでは決まらないということでした。同じ Unreal Engine 5 で作られていても、フォートナイトはパソコン内蔵の画像処理でも動きます。逆に、写実的な作品は同じエンジンでもぐっと重くなる。重さを決めているのは、エンジンの選び方より、何をどう描くかの作り方です。
ちなみに、参考にしたチラズアートさんも、赤マントは Unity、新しめの作品は Unreal Engine 5 と、エンジンを乗り換えています。
3つのエンジンを比べた
候補は Unreal Engine 5.8、Godot 4.7、Unity 6.3 の3つでした。いちばん大事にしたのは「Claude に全部任せられるか」です。
| Unreal 5.8 | Godot 4.7 | Unity 6.3 | |
|---|---|---|---|
| リアルさ・じっとり感 | ◎ | ○ 上限は低め | ○ |
| 影のきれいさ | ◎ 焼き込みが強い | ○ | ○ |
| AI に任せやすいか | ○ C++ と Python で操作できる | ◎ 全部テキスト | △ 私の経験では難しい |
| 私がやること | 最初の規約同意と確認画面だけ | ほぼなし | — |
Unity を選ばなかった理由
実は私は、別の落下ゲームで Unity から Godot へ乗り換えた経験があります。Unity のシーンやプレハブのファイルは、中の部品どうしを ID で参照し合っていて、AI が手で書くと整合が崩れやすい。設定の多くも、エディタの画面で手作業する前提です。結局、私がエディタで手を動かす部分がたくさん残ってしまいました。
エンジンの性能の問題ではなく、AI と一緒に作るやり方との相性の問題だった。
Godot を選ばなかった理由
Godot はファイルが全部テキストなので、AI に任せるにはいちばん楽です。落下ゲームもこれで作っています。ただ、今回の最優先は「影のきれいさ」と「じっとりしたリアルさ」でした。その上限では、Unreal に一段届かないという判断になりました。
Unreal を選んだ理由
Unreal は、作ったデータの多くが中身の読めない形式で保存されるので、AI には向かないと思われがちです。でも実際は、ゲームの仕組みは C++、ステージの組み立てや照明の配置はエディタに付いている Python から、コマンドで実行できます。2026年6月23日に公開された 5.8 では、AI がエンジンに直接つながるための実験的な仕組み(MCP)も入りました。
結果として、私の作業は「インストール時の規約に同意する」「Windows の確認画面で『はい』を押す」くらいになりました。
リアルなのに軽くする工夫
Unreal Engine 5 には、光の反射を毎フレーム計算する Lumen のような、きれいだけど重い機能がたくさんあります。今回はそれを全部オフにして、代わりに次のような工夫で見た目を作っています。
- 光と影は事前に焼き込む:動かない物の影は、作る段階で計算して絵として貼り付ける。遊んでいるときの負荷はほぼゼロ
- 動く影は、動くものだけ:影を落とすライトは画面の中で2つまで
- じっとり感は材質と色で出す:濡れ、苔、錆、色調の補正は軽い。重い霧は高画質の設定のときだけ
- 見える所だけ作り込み、暗さで隠す:ホラーは暗いので、これがとても効く
目標は、GTX 1050 Ti とメモリ8GB の PC で、フル HD の低設定・60コマ/秒。1コマに使える時間は約16.6ミリ秒なので、手元の PC(RTX 4060)では4ミリ秒以内に収めることを目安にしています。
AI に全部任せる方法
実際に Claude が何で何を作っているかを並べると、こうなります。
| 作るもの | Claude のやり方 |
|---|---|
| ゲームの仕組み | C++ のコードを書く |
| ステージの組み立て・照明・焼き込み | エディタの Python スクリプト。何度でも作り直せる |
| 遊具や登場するもののモデル | 3D ソフト Blender を Python から動かして作る |
| 地面や壁の質感 | 自由に使える(CC0)実写スキャン素材を探して使う |
| 声 | 音声合成ソフト VOICEVOX をプログラムから動かす。一部は私が録音した声を加工 |
| 見た目の確認 | エディタの画面写真をコマンドで撮って、Claude が画像を見て直す |
足音や声の一部は、私が自分で録音したものを Claude が切り出して加工しています。人の声や生活音のリアルさは、まだ録ったほうが早い場面もあります。
つまずいたこと
開発ログには、日ごとに「詰まったところと解決法」の表があります。その中から、エンジン選びや道具まわりのものをいくつか。
- C++ に日本語を書くと壊れるおそれ:日本語版の Windows のコンパイラは、文字コードを読み違えることがある。C++ は英語だけで書き、画面に出す日本語は別のファイルから読み込む形にした
- マウスで視点を動かすのが遅すぎる:Unreal はもともとマウスの値を0.07倍にしていて、自分で入れた感度と掛け算になっていた。感度の初期値を10倍に直した
- Blender と Unreal で大きさが合わない:Blender はメートル、Unreal はセンチ。設定によっては、体が100分の1になったり、逆さまになって消えたりした。書き出す直前に、データそのものをセンチにそろえて解決
- 水色の半ズボンが黄緑になった:Unreal が青っぽい画像を「凹凸用の画像」と勘違いして、青の成分を捨てる形で圧縮していた
- インストール画面を操作できない:管理者権限で動くインストーラーが前にあると、操作の道具から触れない。ウィンドウを2枚目のモニターに移して解決
どれも、知っていれば数分、知らないと何時間も溶ける種類の問題です。Claude は全部、原因と解決を表に残してくれるので、同じ穴に二度落ちにくくなっています。
途中で私からお願いして、「同じミスをくり返さないよう、道具で防ぐ」ことにもしました。ファイルの書き換えは、狙った場所に1か所だけ一致しないと何も書かない専用の道具を通す、といった具合です。
作っていく中で、私が決めた4つの原則
作業のほとんどは Claude がやりますが、作っていく途中で「ここは人が決める」と線を引いた場面がいくつもありました。開発ログに「オーナーの指示」として残っているものから、ゲームの中身に関係しない4つを紹介します。
1. カメラに映らない所は、適当でいい
AI は放っておくと、どこも同じ丁寧さで作り込もうとします。登場するキャラクターの背中や、横から見た姿まで。でもこのゲームで、プレイヤーがそれを見ることはありません。
カメラに映らない所は適当でよい。映る所だけ丁寧に。ユーザーは観測できない。
これを作業の手順書に書いてから、確認の画像も「プレイヤーの目の高さから見た連続画像」が基本になりました。横や後ろからの図は、私にモデルの形を見せるときだけに使います。
2. 図形を組み合わせた人間は、チープに見える
最初、人の形は球や円柱を組み合わせて作っていました。でも並べて見ると、どうしても安っぽい。小物は多少ラフでも気にならないのに、人の形だけは厳しく見られます。そこで、自由に使える(CC0 の)人体モデルを作るソフト MakeHuman から作り直すことにしました。
3. 素材は「本番でも使えるもの」だけ
試作の段階でも、効果音や素材は、製品版でもそのまま使えるライセンスのもの(CC0 など)だけにしています。「とりあえず仮で」と入れた素材は、あとで差し替え忘れの原因になるからです。使うたびに、出典と表記の要否を記録しています。
4. 提案で約束したことは、書き出して照らし合わせる
新しい要素を作るとき、Claude はまず設計を提案して、私が OK を出します。その提案の中で約束したことを、作業の手順書の「約束」の欄に1つずつ書き出す。そして報告の前に、1つずつチェックを付けて照らし合わせる。できていないものがあれば、最初にそれを言う。
これを始めたのは、提案と出来上がりがずれていることが何度かあったからです。ある日の記録には、提案で約束した色と、出来上がりの色が違っていたので直した、と残っています。
長い作業は、会話を区切って引き継ぐ
もうひとつ大事だったのが、会話の区切り方です。Claude との会話は長くなるほど、1回やりとりするたびに、それまでの履歴を全部読み直します。だから使用量がどんどん膨らむ。そこで、ひとまとまりの要素を作り終えたら、会話を切ることにしました。
切る前に、Claude が「引き継ぎメモ」を書きます。決まっていること、最初に読むファイル、作り方の手がかり。私は新しい会話を開いて、メモを読むように1行貼るだけ。ゲームの中の要素ごとに、引き継ぎメモのファイルがいくつも並んでいます。
一度だけ、Claude が新しい会話を自分で開こうとして、前の会話を空にしてしまったことがありました。予約しておいた指示も一緒に消えた。それ以来、「会話は Claude が消さない。新しい会話は人が開く」が決まりです。
同じミスをくり返さない工夫もしました。ファイルの書き換えは、狙った場所に1か所だけ一致しないと何も書かない専用の道具を通す。テストで「無効な実行」と出たら、その結果は信じない。こうした決まりは、ミスが起きるたびに手順書に足していきました。
12日間の数字
- 12日9月25日〜10月6日の作業期間
- 8回Claude Code の作業のまとまり
- 約600万Claude Code が書いた出力トークン
- 約20億読み直しを含めて処理したトークン
この PC に残っている Claude Code の記録から集計した数字です。大半は、長い作業のたびに前の内容を読み直している分です。
そのあいだ私がしていたのは、遊んで「ここが変」を伝えること、方向性を決めること、そして素材の権利を一緒に確かめることでした。初日だけでも3回遊んで、操作や音、演出の弱さを指摘しています。その話はAI は仕事を奪う?のノートに書きました。
このノートから持ち帰れること
ゲームエンジンに限らず、AI に作業を任せる道具を選ぶとき、任せて作り進めるときに使える考え方です。
- 道具は「AI がエディタの外から触れるか」で選ぶ性能や評判より先に、ファイルがテキストか、コマンドや Python から操作できるかを見る。Unity で私が詰まったのは、性能ではなく「画面で手作業する前提」の部分だった。ゲームエンジン、デザインツール、ノーコードツールを選ぶとき
- 重さは道具ではなく、作り方で決まる同じエンジンでも、軽い作品と重い作品がある。参考作品の動作環境を並べると、何が重さを決めているかが見えてくる。スペックの低い PC やスマホ向けに作るとき
- 見えない所は手を抜くと、AI にはっきり伝えるAI はどこも同じ丁寧さで作ろうとする。「ここは見えないから適当でいい」は、人が言わないと伝わらない。資料づくり、サイト制作、3D モデル。時間を使う場所を決める
- 約束はリストにして、報告の前に照らし合わせる提案で約束したことを書き出しておけば、「言ったのにやってない」がその場で見つかる。AI に設計から任せる作業全般。人の仕事の受け渡しにも
- 長い作業は、引き継ぎメモで会話を区切る会話は長くなるほど高くつく。区切りごとにメモを書かせて、新しい会話はメモ1行から始める。Claude Code や ChatGPT での長い開発、調べもの
- 設定やデータは、テキストのファイルとして保存されるか
- コマンドや Python から、画面を開かずに操作できるか
- 出来上がりを、AI が画像や数字で確かめる方法があるか
- 人が手でやらないといけない作業は、何がどれだけ残るか
やってみよう
記事と同じことを、手元の AI で試せる指示文です。ChatGPT・Gemini・Claude のどれでも使えます。AI は毎回ちがう答えを返すので、記事とまったく同じ条件にはなりませんが、考え方の練習にはしっかり使えます。実際にやってみてください。
練習1AI に任せやすい道具か、確かめる
次の道具を使って、作業のほとんどを AI に任せたいと考えています。 (例:Unity / Canva / Notion / Excel など) 次の4つについて、事実ベースで答えてください。分からないことは「分からない」と書いてください。 1. 設定やデータは、テキストのファイルとして保存されますか 2. コマンドやプログラムから、画面を開かずに操作できますか 3. 出来上がりを、AI が画像や数字で確かめる方法はありますか 4. 人が手でやらないといけない作業は、何が残りますか
答えのうち、公式のドキュメントで確かめるべき部分はどこか。
練習2参考作品の「重さ」を比べる
私が作りたいものの参考作品は次の3つです。 (例:好きなゲームやアプリを3つ) それぞれの「動かすのに必要な最低の環境」を表にしてください。出典の URL も付けてください。分からないものは空欄にしてください。
出典のページを開いて、数字が合っているか。合っていなければ、それも AI の間違いの練習になります。
練習3手を抜いていい場所を決める
いま作っているもの:(例:5ページの会社案内のサイト) 見る人が実際に目にする場所と、ほとんど見ない場所に分けてください。そのうえで「ここは最低限でいい」と言える場所を3つ挙げてください。
「見えない所は適当でいい」を、自分の作業で言葉にできたか。
出典・参考にした情報
- Epic Games「Unreal Engine 5.8 がリリースされました」(2026年6月23日)
- Steam「8番出口」の動作環境
- Steam「赤マント」の動作環境
- エンジン選定の記録・開発ログ(2026年9月25日〜10月6日、自分の作業記録)。トークン数は、この PC に残っている Claude Code の利用記録から集計
2026年10月22日に確認しました。ゲームの内容(ルールや仕掛け)は公開前のため書いていません。下書きや図づくりには AI を使っていますが、事実関係は自分で確かめてから公開しています。