1. トップ
  2. ノート
  3. シスターズが作りたかった男の末路
開発記録 約9分で読めます(4,731字)

シスターズが作りたかった男の末路
〜レベル5量産計画〜

6人の AI に X の運用を任せて、私は承認ボタンを押すだけ。そんな夢のボットを作った結果、実際に投稿されたのは1週間で2件でした。旧版を畳んだいま、残っていた記録から振り返ります。

この記事は 2026年10月22日時点の情報です

2026年3月、私は「妹たち」を作ろうとしていました。

元ネタは『とある魔術の禁書目録』シリーズに出てくる「妹達(シスターズ)」です。作中では、超能力の頂点「レベル5」の少女のクローンが大勢つくられ、「ミサカネットワーク」で頭の中をつないで、手分けして動きます。あれを AI でやれば、SNS の運用を全部任せられるんじゃないか。私は承認ボタンを押すだけで、X のフォロワーが勝手に増えていくんじゃないか。

そうして作ったのが、Discord で動くボット「Sisters Network」です。結論から言うと、1週間で実際に X に投稿されたのは2件でした。このノートは、その旧版を畳んだあとに残っていたコードとログから振り返る、ちょっと恥ずかしい記録です。

3行でいうと
  1. 6人の AI キャラに、トレンド分析・ネタ出し・投稿・承認を分担させる Discord ボットを作った
  2. 機能は増えたのに、投稿できたのは2件。AI の返信案は10件中0件しか採用できなかった
  3. AI が「それ、私です」と名乗る英語の投稿を出しかけた。自分で自分を書き換える機能は、怖くて止めた
  • 6人役割を分けた AI のキャラクター
  • 2,276行ボット本体のコード
  • 16個決まった時間に動く処理
  • 2件実際に X に出た投稿

レベル5量産計画

計画はこうです。それぞれのキャラに担当を決めて、Discord のチャンネルで報告させる。キャラの口調は、原作の話し方をまねるように AI に指示しました。たとえば御坂ナンバーズの子たちは、文の最後を「と、ミサカは〇〇します」で締める、というように。

キャラ担当
うすいX に投稿する「私」。なぜかギャル系の女子という設定
御坂ワーストトレンドや過去の投稿を分析して、ネタを提案する
ラストオーダー総司令。投稿の審査と、私への承認の依頼
御坂10032号X のトレンドの見張り
御坂9982号AI の最新ニュースを集めて、批評つきで報告
御坂19090号使えそうなプロンプトの調査

X の「うすい」は、設定上ギャルでした。このノートの落ち着いた口調とは、だいぶ違います。

投稿の流れ。ワーストがネタを提案し、うすいが投稿文を書き、ラストオーダーが審査して、OKなら自動投稿、要確認ならDiscordで人に承認を求め、NGならボツにする ワースト ネタを提案 うすい 140字で書く ラストオーダー 審査する 自動投稿 人に聞く ✅ / ❌ ボツ OK 要確認 NG 私の仕事は、✅ を押すことだけ…のはずだった
ボットの記録に残っていた、投稿の流れ

作ったもの

中身は Python の Discord ボットで、文章を考える部分は Claude を PC のコマンド(Claude Code の CLI)から呼び出していました。最初は自分の PC で動かし、そのあと24時間動かすためにクラウドの無料サーバーへ移しています。

決まった時間に動く処理は16個ありました。

  • 毎朝7時:AI の最新ニュースを集める
  • 毎朝9時:総司令が、その日の予定を含めた朝の報告をする
  • 毎日14時:使えそうなプロンプトを調べる
  • 毎晩19時:その日の投稿の結果を振り返って、理由を記録する
  • 毎晩22時:総司令が、ボット自身の改善案を出してくる(✅で承認)
  • 昼間のランダムな時間:キャラが「今何してる? 早く開発しようぜ」と声をかけてくる

さらに、X に投稿するための承認の流れ、メンションへの返信案、メモ帳、予定の登録、Python を実行するコマンドまで。コマンドは17個になりました。

機能は、1週間でここまで増えました。

問題は、そのあとです。

1週間の成果

残っていたログによると、AI のキャラたちに仕事を頼んだのは、3月26日から4月2日までで56回。そして X に実際に投稿されたのは、4月1日の2件だけでした。

AIにゲームの企画考えてもらったら、正直私より面白いアイデア出てきてて笑えなかった。嬉しいのか悔しいのかわからん。みんなはAIに負けた瞬間ってある?

これがそのうちの1件です。悪くはない。悪くはないんですが、いいね数などを集めて学習する仕組みのほうは、2件とも数値が取れないまま空っぽでした。

4月1日の夜、総司令は自分から改善案を3つ出してきました。その中身が、このボットの状況をいちばん正直に表しています。

改善案の題(AI が書いたもの)優先度
リプライ承認率の改善(0/10)高
英語投稿の承認率改善(0/2)高
日本語投稿の承認率向上(2/5 → 目標4/5)中

AI が作った返信案は、10件中0件。私の ✅ が一度も押されないまま終わっています。返信は、知らない人に自分の名前で話しかけることです。AI が書いた文章でそれをするハードルは、思っていたより高かったようです。

「それ、私です」事件

いちばん印象に残っているのは、4月2日の早朝4時55分に自動で作られた英語の投稿です。本来は140字くらいの短い投稿になるはずでした。実際に作られたのは、1,365文字もある英語の長文です(ログから抜粋)。

Tools like Claude Code (hey, that's me!) can now spin up *sub-agents* to handle parallel tasks ... What draws you to AI tools — more the developer/builder side, or the "how do I actually use this to get stuff done" side? 😄

「Claude Code(はい、それ私です!)」。AI が自分の正体を名乗ったうえで、最後に読者へ質問まで投げかけています。短い投稿文ではなく、AI との会話の返事がそのまま投稿用の文章として流れてきてしまったようです。

この投稿は、X から「この操作は許可されていません」と断られて、世に出ませんでした。助かりました。

X の私はギャルのはずなのに、英語では AI であることを白状していた。設定が全部崩れています。

自分で自分を書き換えるボット

このボットには、もうひとつ攻めた機能がありました。夜に私が ✅ を押した改善案を、毎朝3時に AI が自分で実装して、ボット自身のコードを書き換えて、再起動するというものです。バックアップを取って、文法のチェックもしてから書き換える作りでした。

でも、これは最終的に止めました。コードには、この一行が残っています。

return # 安全のため無効化。bot.pyの自動書き換えは危険なので手動運用に切り替え。

夜中の3時に、誰も見ていないところで、外に投稿できる権限を持ったプログラムが自分のコードを書き換える。冷静に考えると、かなり怖いことです。改善案は3つとも、結局「実装済み」にならないまま終わりました。

AI に任せるのは「作る」まで。自分の権限を広げる変更は、人が見てから入れる。

小さなつまずき

ほかにも、記録には細かいつまずきが残っていました。

  • 1時間に1回、トレンドを調べ続ける:Discord には、私が書いた「なんで1時間に1回トレンド把握してるの?」というぼやきが2回残っています。コードを見ると、1時間ごとのトレンド取得は「廃止済み」とメモされているのに、ほかにも1時間ごと・30分ごとに動く処理がいくつも残っていました。止めたつもりのものが、別の形で動き続けていたんです
  • トレンドの数字が全部0:トレンド分析のレポートは立派なのに、元のデータの「いいね」と「リポスト」の数は全部0。数字のない分析でした
  • キャラを指定し忘れると落ちる:「誰に聞くか」を書かずに質問すると、エラーで止まっていました

末路から学んだこと

旧版はその後に畳んで、いまは作り直したものを使っています。振り返ると、失敗の理由はわりとはっきりしています。

  1. 「自分の名前で出せるか」は、AI には決められない:返信案の承認は0/10。最後に ✅ を押すのが人である以上、そこが詰まると全部が止まる
  2. キャラを増やしても、成果は増えない:6人に役割を分けても、投稿は2件。役割を増やすより、1つの流れを最後まで通すほうが先でした
  3. 数字が取れないなら、学習もできない:結果を測る部分が動いていなければ、振り返りも改善案も空回りする
  4. 夜中の自動書き換えは、やらない:外に影響する権限を持ったプログラムほど、変更は人が見る

ちなみに、ボットのメモ帳には、私が書いた「タイマー機能を足したい」「ランダムな時間に『今日は何してる? 早く開発しようぜ』と声をかけてほしい」という要望が残っていました。SNS を任せるより、自分の開発を見守ってもらう方向に、途中から興味が移っていたのかもしれません。

ちなみにこの記事、ボットの画面のスクリーンショットは1枚もありません。サーバーごと消してしまったので。図はすべて、残っていたコードとログから描き直したものです。

つまり何?

このノートから持ち帰れること

「AI に任せて、自分は承認するだけ」という仕組みは、SNS に限らず、いろんなところで作りたくなります。そのときに先に知っておきたいことです。

  1. 人の承認が入る仕組みは、承認のところで詰まるAI がいくら案を出しても、私が押せなければゼロ。最初に「自分は何なら押せるか」を決めて、そこから逆算して作る。AI に下書きさせるメール、返信、議事録、提案書
  2. AI の出力は、出す前に機械的に検査する「それ、私です」の英語の投稿は、文字数が上限を大きく超えていた。字数・言語・禁止語・「AI です」という自己紹介を、投稿の前にプログラムで弾くだけで防げた。自動投稿、自動返信、AI が書いた文章をそのまま外に出すもの全般
  3. 増やす前に、1本を最後まで通すキャラを6人に増やしても、投稿は2件。役割や機能は、最初の1本が端から端まで動いてから足す。新しい仕組みづくり、チームでの業務の自動化
  4. 測れないものは、改善できない振り返りの仕組みは毎晩動いていたのに、元になる「いいね」の数が取れていなかった。改善の仕組みより先に、測る仕組みが動いているかを確かめる。広告やアクセスの分析、AI に改善案を出させるとき
  5. 自分の権限を広げる変更は、AI に任せない夜中に AI が自分のコードを書き換えて再起動する機能は、止めて正解だった。外に影響する権限を持つ仕組みほど、変更は人が見てから入れる。サーバーの設定、課金、公開ボタンのある仕組み
AI に SNS を任せる前の、4つの確認
  • AI が書いた投稿を、自分の名前で出してもいいと思えるか(まず10件、手で判定してみる)
  • 投稿の前に、字数・言語・禁止語を機械で検査しているか
  • 結果(いいね・表示回数)を、ちゃんと取れているか
  • 止めたつもりの定期処理が、ほかの形で動き続けていないか

やってみよう

記事と同じことを、手元の AI で試せる指示文です。ChatGPT・Gemini・Claude のどれでも使えます。AI は毎回ちがう答えを返すので、記事とまったく同じ条件にはなりませんが、考え方の練習にはしっかり使えます。実際にやってみてください。

練習1AI の投稿文を、出す前に検査する

SNS に投稿する文章を AI に書かせて、自動で投稿する仕組みを考えています。 投稿の前に、プログラムで機械的にチェックすべき項目を10個挙げてください。 (例:文字数の上限、言語、禁止語、「AI です」という自己紹介が混ざっていないか) それぞれ、なぜ必要かも一言で添えてください。

記事の「それ、私です」事件を防げる項目が入っているか。

練習2自分の名前で出せるか、を先に試す

私の X のアカウントの雰囲気は次のとおりです。 (例:個人でゲームを作っている。落ち着いた口調。宣伝は控えめ) この雰囲気で、140字以内の投稿を10個書いてください。

10個のうち、本当に自分の名前で出せるのは何個か。0〜2個なら、自動化より先に指示を見直す。

練習3増やす前に、1本を通す

AI にやってほしい仕事を、思いつくだけ書きます。 (例:ニュースを集める、投稿のネタを出す、返信を書く、毎朝報告する) この中から「最初の1本」として、端から端まで動かすべきものを1つ選んでください。理由と、それが動いたかを確かめる方法も教えてください。

「測れる」ものが選ばれているか。

この記事の材料

  1. 旧ボットのコード(2,276行)、設定のメモ、投稿・提案・利用のログ(2026年3月26日〜4月2日、手元に残っていたもの)
  2. サーバーの住所や鍵、API の残高など、運用上の情報は載せていません。キャラクターの画像も使っていません

2026年10月22日に記録を読み返して書きました。下書きや図づくりには AI を使っていますが、事実関係は自分で確かめてから公開しています。

ウスイのアイコン

ウスイ福岡で個人開発をしています。アプリやゲームを作りながら、分かったことをこのノートに書いています。運営者・編集方針

次に読むなら

  1. 開発記録

    色違いが出るまで、PC に粘ってもらう。99.7時間、5,510回目で通知が来るまでの記録

    2026年9月13日、18時47分。スマホに「いたよー!!」と通知が来ました。そこまでの6日間、99.7時間ぶんの試行錯誤を、日を追って振り返ります。

  2. 開発記録

    AI のやらかしを22件、全部記録してみた。ノベルゲーム制作で分かった「失敗の型」

    頼んでいない所まで直す。大事な音を消す。実在の人の経歴を作る。AI が自分で書いた反省文22件を読み返して、失敗の型と防ぎ方をまとめました。

  3. 疑問

    AI は嘘をつく? 開発中に私が実際に出会った「それっぽい間違い」4つ

    架空の戦績、でたらめな秒数、中身を見ていない「確認済み」。開発の現場で実際に起きた例から、AI の間違いの正体と付き合い方を考えます。